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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)6535号 判決

原告

加藤満雄

原告

加藤道子

被告

第二エビスハイツ管理組合

右代表者理事長

黒田麻起子

右訴訟代理人弁護士

田井純

主文

一  原告らと被告との間において、昭和五九年三月一八日に定められた第2エビスハイツ管理規約が無効であることを確認する。

二  被告は、原告らに対し、別紙目録一記載の建物の玄関入口に設置した同目録二記載の物件を撤去せよ。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

主文同旨の判決及び同第二項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  別紙目録一記載の一棟の建物(第2エビスハイツ。以下「本件ハイツ」という。)は、三恵建設株式会社(以下「訴外会社」という。)が昭和四三年四月に建築、分譲した区分所有建物である。

2  原告らは、昭和四二年一一月一八日、訴外会社から別紙目録一記載の専有部分の建物(本件ハイツ六階六〇二号。以下「本件専有部分」という。)の分譲を受けて購入し、右建築以来これを持分各二分の一により区分所有している。

3  被告は、昭和五六年七月、本件ハイツの建物、その敷地及び附属施設の管理を目的として、その区分所有者全員を構成員として組織された団体(いわゆる管理組合)である。

4  掲示板の設置

(一) 被告は、昭和五八年一二月下旬から昭和五九年一月二八日までの間に、本件ハイツの表玄関入口に別紙目録二記載の物件(以下「本件掲示板」という。)を設置した。

(二) 本件掲示板は、本件ハイツの一、二階各一室を除く専有部分の営業目的の使用を許さない趣旨のものである。

5  集会による規約の改正

被告の昭和五九年三月一八日開催された臨時総会(以下「本件臨時総会」という。)において、昭和五六年七月一日施行の本件ハイツ管理組合規約(以下「旧規約」という。)を廃止し、新たな本件ハイツ管理組合規約(以下「新規約」という。)を設定する旨の決議(以下「本件決議」という。)がされた。

6  本件決議には、次のとおりの瑕疵があり、無効である。

(一) 本件ハイツの区分所有者は二九名であるから被告の組合員は二九名であり、旧規約は被告の総会の定足数につき組合員の過半数の出席を要求しているところ、本件臨時総会には一四名の組合員しか出席しなかつた。

(二) 本件臨時総会の召集に際して、旧規約の廃止及び新規約の設定を議題とすることはあらかじめ通知がなく、議案の要領の通知もなかつた。

(三) 新規約の設定は、原告らの権利に特別の影響を及ぼすものである。

(1) 新規約一二条は、本件ハイツの用法として、一階の一〇一号(以下「一〇一号」という。)及び二階の二〇一号(以下「二〇一号」という。)以外は専ら住居として使用し、他の用途に使用してはならない旨規定している。これは、住宅以外の用途に使用できることを前提に本件専有部分を購入し、使用してきた原告らの既得権を侵害する。

(2) 旧規約一四条では専有部分の床面積四〇平方米につき一個の議決権が与えられていたところ、新規約四五条は床面積にかかわらず住戸一戸につき一個の議決権を与えるに留まる。

(3) 新規約四五条5は、従来認められていた借家人による議決権の代理行使を排除している。

(4) 新規約二四条1は、個人賠償責任保険を含む多種の保険への加入等を規定し、区分所有者に多額の費用負担を強いているが、その必要性はないものである。

よつて、原告らは、被告に対し、区分所有権に基づく妨害排除請求として、本件掲示板を撤去することを求めるとともに、被告との間で、新規約が無効であることの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実は認める。

4  同4(一)、(二)の事実は認める。

5  同5の事実は認める。

6  同6(一)の事実中、本件臨時総会には一四名の組合員しか出席しなかつたことは否認し、その余の事実は認める。本件臨時総会には二八名の組合員が出席した。もつとも、そのうち一四名は委任状によるものであるが、議決権行使自体委任状によることが認められているのであるから、委任状による者も出席者に算入されるべきである。

同6(二)の事実は認める。

同6(三)の事実中、新規約及び旧規約に原告ら主張のとおりの規定があることは認めるが、その余の事実は否認する。

三  抗弁

1  本件掲示板設置の適法性

(一) 本件ハイツの用途制限

訴外会社は、本件ハイツを一〇一号及び二〇一号以外は住宅専用の建物として分譲したもので、原告らをはじめ分譲を受けた各区分所有者はいずれもこれを承諾して各専有部分を購入したものであるから、全区分所有者間には当初から右一〇一号及び二〇一号を除く各専有部分の用途を住居のみに制限する合意が成立している。

このことは、次の事実から明らかである。

(1) 訴外会社は、本件ハイツを一〇一号及び二〇一号は事務所仕様、それ以外は専用住宅仕様により設計、建築した。

(2) 本件ハイツの当初の管理規約(以下「原始規約」という)第一条の建物の表示は、一階店舗及び事務所、二階以上住宅とされていた(二〇一号については、その購入者が住宅として使用していたので、これを前提として右表示をした。)。

(3) 原始規約一二条五号は、一階区分所有者以外は、本件ハイツに営業のための表示や広告をすることができない旨規定していたが、これは一階部分以外の営業的使用が禁止されていることを前提とするものである。

(4) 昭和四九年二月ころ、本件ハイツの八階の一室の区分所有者が同所を使用して託児所を開設、営業しようとしたが、他の区分所有者等から本件ハイツでは営業行為はできない旨の指摘を受けて、これを中止したことがある。

(二) 総会による掲示板設置の決議

被告は、本件掲示板を、昭和五八年一二月四日開催された被告の総会における、本件ハイツの一、二階の各一室を除く専有部分の営業目的の使用を許さない旨の掲示板を設置する旨の決議に基づいて設置した。

これは、右総会の召集通知をした後、本件専有部分の賃借人が針灸治療の看板を掲げて営業を始めるという事態が発生し、他の組合員に生活環境が破壊される不安、動揺が生じ、あるいは営業目的による使用ができると誤解した転得者や賃借人がいつ出現するかも知れないため、緊急を要する問題で全組合員、全議決権の各過半数の賛成があれば、あらかじめ通知していない事項についても議決できるとする旧規約二二条2に基づいて議決したものである。

2  権利濫用

次の事情があるから、原告らの新規約の無効確認の請求は権利濫用にあたる。

(一) 被告は、本件臨時総会に先立ち、新規約を居住者に回覧したうえで、旧規約の廃止、新規約の設定を議題に追加したものである。

(二) 本件臨時総会では出席者全員が本件決議に賛成し、本件臨時総会後全組合員に新規約の成文を送付したが、原告ら以外に異議を申し出た者はなく、改めて被告の総会を召集してみても本件決議と同じ決議がなされることは明らかである。

(三) 新規約が制定されて既に一年以上経過し、その間新規約が本件ハイツにおける共同生活のルールとして機能し、新規約に基づく各使用細則によつて本件ハイツの管理、運営や共同利用が行われ、新規約制定と同時に選任された被告の役員の任期も満了して、その後新たな役員が選任され、就任して現在に及んでいる。

(四) 原告らは、昭和五七年、同五八年分の通信連絡費及び同年四月分以降の管理費等増額分を支払わないため、被告から訴えを起こされたのに対抗することのみを目的として本件訴訟を提起したものである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)の事実中、前段の事実は否認する。後段の事実中、(2)の原始規約の建物の表示が被告主張のとおりであることは認める。(4)の事実は知らない。その余の事実はいずれも否認する。同(1)については、原告は、訴外会社から本件専有部分を購入するに際して、多目的用途に供するため内部仕様の変更及び追加工事をさせた。

同1(二)の事実は否認する。本件専有部分の賃借人が看板を掲げたことはなく、同人は、本件ハイツの集合郵便受の名札にその旨の表示をしたにすぎず、その時期も昭和五八年一二月四日の被告の総会の召集通知がなされる前である。

2  同2の事実はいずれも否認する。

同2(一)については、被告の組合員二九名のうち本件ハイツに居住しているのは一九名でその余は本件ハイツに居住していないから、新規約をあらかじめ居住者に回覧したからといつて、これを周知させたことにはならない。

同2(三)については、原告らは、昭和五九年四月二七日新規約が送付された後直ちに被告の理事長にこれに対する異議を述べ、被告の総会の開催を要求したが、なかなかこれに応ぜず、昭和六〇年四月二〇日になつてようやく総会が開かれたが、右総会でも原告らの発言が阻止されたため、やむなく本件訴訟を提起したものであつて、何ら時機を失したものではない。

同2(四)については、原告らは、被告の求める費用がいずれも旧規約に規定されていないものであるため、その支払を拒んでいるもので、決して不当な拒否ではない。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二掲示板の撤去請求について

1  請求原因4の事実は当事者間に争いがない。しかして、本件掲示板が本件専有部分を住居以外に使用することを妨げていることは、その記載内容から明らかというべきである。

2  被告は、本件ハイツの全区分所有者間には当初から一〇一号及び二〇一号を除く各専有部分の用途を住居のみに制限する旨の合意が成立していると主張するので、これについて判断する。

(一)  〈証拠〉を総合すれば、(1)訴外会社は、本件ハイツを一〇一号及び二〇一号は店舗・事務所仕様として、それ以外の専用部分は専用住宅仕様により設計し、昭和四二年八月ころからその建築工事を始めたこと、(2)訴外会社は建築工事中から本件ハイツの分譲を開始し、購入を希望する顧客との間で順次売買契約を締結していつたこと、(3)そして、購入者が間取り、床様式等の変更を希望する場合にはこれに応じて当初の設計を変更して工事を行い、昭和四三年四月ころ本件ハイツは竣工したが、一〇一号及び二〇一号以外の各専用部分はいずれも住宅仕様に完成されたこと、(4)本件ハイツに設置されたエレベーターは、建築の当初から積載荷重四〇〇キログラム、最大定員六名、床も間口1.15メートル、奥行0.9メートルと小型のものであるが、これは訴外会社が三階以上は住居として使用されることを想定していたからであること、以上の事実を認めることができ、原告道子本人の供述中原告らが本件専有部分を事務所用に内部仕様を変更してもらつた旨の部分は前掲各証拠に照らして措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

しかしながら、いわゆる区分所有建物における区分所有権も一個の所有権にほかならず、その使用収益の態様は本来住居としてのみに限られないこと、各専有部分の内部の仕様についても建物の構造、外観に影響を与えず、かつ共用部分にわたらないものである限り本来区分所有者の自由になしうることと解されることからすれば、建築時の仕様によつて将来にわたる各専有部分の用途が制限されることを前提として分譲が行われ、各区分所有者がこれを前提として各専有部分を購入したというような特段の事情のない限り、建築時の仕様から当然にその用途につき制限を受けるいわれはない。これを本件についてみるに、〈証拠〉を総合すれば、訴外会社が本件ハイツの分譲に際して作成し、配布したパンフレットには本件ハイツが一〇一号及び二〇一号を除き住居専用であり、それ以外の用途に使用してはならない旨の記載はなく、少なくとも原告らとの間で本件専有部分の売買契約の締結にあたつた訴外会社の販売担当者は原告らに本件ハイツが一〇一号及び二〇一号を除き住居専用であることは告げておらず、原告らは右用途制限がないものと考えて本件専有部分を購入したものであることを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。右の事実に照らせば、原告らが本件専有部分を建築時の仕様に従つて専ら住居として使用収益することを前提にその分譲を受け、これを購入したものと認めるのは困難である。本件ハイツに設置されたエレベーターが住居使用を前提とした小型のものであるとしても、上層階の専有部分を住居以外に使用することが常に右エレベーターの構造に適合しないわけではなく(これは、その利用の態様による別個の問題である。)、この点は前記特段の事情とするに足りない。他に前記特段の事情を認めるべき証拠はない。してみれば、前段の事実から前記合意の存在を認定することはできない。

(二)  抗弁1(一)後段の事実中(2)の原始規約の建物の表示が被告主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、この事実に、〈証拠〉を総合すれば、(1)訴外会社は本件ハイツの各専有部分を分譲する都度購入者から原始規約につき承諾をとりつけ、分譲の完了と共に原始規約は昭和五八年法律第五八号による改正前の建物の区分所有等に関する法律二三条以下の規約として発効したこと、(2)同規約一条は、「この規約の対象である第二エビスハイツ共同住宅、その敷地、及び附属施設は次の通りとする。一、建物の表示 東京都渋谷区恵比寿四丁目十七の八所在鉄筋コンクリート造、八階建(壱階店舗及び事務所。弐階以上住宅)〔以下省略〕」と規定していること、更に、(3)同規約四条は、「各区分所有者及び専有者はその専有部分を売買契約所定の用途に従つて使用する」ものとするとの規定があること、(4)同規約一二条五号は、一階店舗(事務所)部分の区分所有者以外の区分所有者に対し、「建物の名称の他建物の屋上、外壁その他周囲一切に看板、掲示板、広告標識等を設置、貼付、掲示又は記入すること」を禁じていること、以上の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

しかしながら、右2の規定は、原始規約の適用を受ける区分所有権の対象を特定するための規定にすぎず、それ以上に本件ハイツの用途を制限する合意を含む趣旨のものでないことは右規定の位置、その体裁から、また、右(4)の規定はその対象場所を建物の屋上、外壁その他周囲一切としており、専有部分については何ら言及しておらず、対象行為も看板、掲示板、広告標識等の設置、貼付、掲示又は記入というこれらの場所の占有、使用に関するものであつて、右規定は専ら共用部分の使用方法の制限に関するものであることはその内容からいずれも明らかである。仮に、右(2)、(4)の規定が各専有部分の用途を制限する趣旨を含むと解した場合には、二〇一号についてもその用途が住居に制限されるものと解せざるをえなくなるが、これは、前記(一)のとおり、訴外会社は一〇一号の外二〇一号も店舗・事務所として分譲したものであること、被告の主張によつても、二〇一号については専有部分の用途を住居のみに制限する合意がないことにさえ矛盾し、解釈上の合理性に乏しい。してみれば、原始規約の前記(2)、(4)の規定から直ちに前記合意の存在を認めることはできない。他方、〈証拠〉によれば、原告らと訴外会社との間の本件専有部分の売買契約書には同部分の用法については何ら記載がないことを認めることができ(右乙第一八号証及び証人江口安男の証言に照らせば、甲第二四号証の物件目録中設備欄の「追加変更分(事務所)は別途協議す。」との記載は売買契約後訴外会社の関知しないところで書き込まれたものと認められるから、右記載に基づいて右売買契約においては本件専有部分が事務所として使用されることが当然に予定されていたものと認めることはできないけれども、このことは前認定と矛盾するものではない。)、右の事実に(一)後段で判示したとおり原告らは本件専有部分を建築時の仕様によつてその用途が専ら住居のみに制限されることを前提としてこれを購入したものと解すべき特段の事情は認められないことを合わせ勘案すれば、右(3)の規定は本件ハイツが一〇一号及び二〇一号以外の専有部分の用途が住居のみに制限されていることを前提とした規定とは速断し難く、右規定から前記合意の存在を推認することもできない。

(三)  〈証拠〉を総合すれば、(1)本件ハイツでは、四階の専有部分の借り主がぬいぐるみ人形の商売を始め、ぬいぐるみの搬入搬出でエレベーターが占拠されて他の居住者の利用が妨げられるという事件が発生したことがあり、昭和四八年四月の区分所有者の集会で問題となり、出席者間(すくなくとも原告らは欠席した。)では本件ハイツが住居専用であることを確認し、訴外会社に善処するよう申し入れた結果借り主は右商売をやめたこと、(2)翌昭和四九年二月には本件ハイツ八〇三号の区分所有者が託児所の開設を計画したのに対して他の区分所有者から反対運動が起こり、本件ハイツの専有部分二九戸中二四戸から反対の署名が寄せられ、結局右区分所有者は託児所開設を断念したことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

しかしながら、右(2)のような問題が生じること自体本件ハイツの区分所有者間に被告主張のような用途制限の合意が存在することの一致した認識が存しないことを窺わせるものというべきであり、かつ、右(1)のような確認がなされたからといつて欠席者をも含めた全区分所有者間に右のような合意が存在し又は成立したものとみることができないことはいうまでもない。(1)の商売が中止され、(2)の計画が断念された点についても、それが必ずしも本件ハイツに三階以上は住居専用という用途制限が存することを前提にしてこれに従つたとみるほかないわけではなく、他の区分所有者との摩擦を回避しようという観点からの決断であつた可能性も残るものというべきである。したがつて、前段の事実もまた、被告主張の合意の存在を裏付けるものということはできない。

(四)  証人鈴木たね子、同山尾健の各証言及び被告代表者の供述中には、本件ハイツは一、二階以外住居専用である旨の部分があるけれども、原始規約にその根拠を求めることができないことは2で判示したとおりであり、右各証言、供述においてはそれ以外の確たる根拠が示されていないから、これらの見解は、上叙1ないし3に照らして採用できない。

(五)  以上の他抗弁1(一)前段の合意の成立を認めるべき証拠はない。してみれば、抗弁1はその余の点につき判断するまでもなく失当というべきである。

3  以上によれば、本件掲示板の撤去を求める原告らの請求は理由がある。

三新規約の無効確認請求について

1  請求原因5の事実は当事者間に争いがない。右事実によれば、本件臨時総会については、昭和五八年法律第五一号による改正後の建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)が適用される。

2  請求原因6(一)の事実は、本件臨時総会の出席者が一四名であることを除き、当事者間に争いがない。しかしながら、証人山尾健の証言及びこれにより成立の認められる乙第五号証によれば、本件臨時総会には、本件ハイツの区分所有者のうち一四名が自ら出席した以外に他の一四名が委任状を提出したことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。そして、右委任状の提出は代理人による議決権の行使と解されるところ、定足数の算定につき代理人によつて議決権を行使する者を出席者から除外すべきものと解する理由はないから、本件臨時総会は原告ら主張の定足数を充たすものと認められる。してみれば、請求原因6一の主張は失当である。

3  召集手続の瑕疵について

(一)  請求原因6(二)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  権利濫用の抗弁について

〈証拠〉を総合すれば、抗弁2(一)ないし(三)の事実(ただし、(三)のうち「その間新規約が本件ハイツにおける共同生活のルールとして機能し」との部分を除く。少なくとも、原告らについては、新規約が右ルールとして機能していないことは、弁論の全趣旨により明らかである。)及び旧規約の廃止、新規約の設定という本件決議は、昭和五八年の法改正に伴い旧規約をこれに即して改める必要が生じたためであることを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

しかしながら、(一)で確定した本件臨時総会の召集手続の瑕疵は、区分所有関係の基礎となるべき規約の廃止、設定という集会で決議すべき事項の中では最も重要な部類に属する議題に関するものであること、〈証拠〉を対照すると、新規約は、単に法に不適合の部分を改めるに留まらず、建物の用法に関して一章を置き、詳細な規定(その中には、本件ハイツを一〇一号及び二〇一号以外住居専用とする旨の規定もある。)を設けたこと(新規約一二条ないし一九条)、被告が区分所有者を代理して各種保険(その中には個人賠償責任保険も含まれている。)を締結し、保険金を受領し、これを修復費用に充当することを後者が承認する旨の規定を置いたこと(同二四条1、2)、旧規約では認めていた借家人を代理人とする議決権行使を排除していること(同四五条5)など本件ハイツの管理に関し改正された法に適合させるため不可欠とはいえない事項についても規定を新設していることが認められること(なお、以上に関して、新規約及び旧規約に請求原因6(三)(1)、(3)、(4)で原告らが主張する規定があることは当事者間に争いがない。)、法は区分所有建物の管理につき集会中心主義をとり、重要な事項はすべて集会の決議によつて定めることとし、とりわけ規約の設定、変更、廃止については区分所有者及び議決権の四分の三以上の多数の決議によることとする(法三一条一項)とともに、あらかじめ通知することなく規約の設定、変更又は廃止を決議することは規約をもつてしても定めることができないとしていること(法三七条二項)、集会において決議すべき事項については、区分所有者全員の書面による合意があつたときに限り、集会の決議があつたものとみなされること(法四五条一項)としていることに鑑みれば、前記召集手続の瑕疵はけつして軽微なものとはいえず、右抗弁一ないし三の事情があるからといつて、右瑕疵を理由とする本件決議の無効を主張することができなくなるものと解することはできない。

〈証拠〉を総合すれば、原告らは、昭和五七年、同五八年分の通信連絡費及び同年四月分以降の管理費等増額分を支払わないため、被告から渋谷簡易裁判所に訴えを提起されたことを認めることができる。しかしながら、〈証拠〉によれば、原告加藤満雄は、本件臨時総会後間もない昭和五九年四月二七日、被告に宛てて本件決議が召集通知に記載のない事項についてなされたものであり、これにより設定された新規約に従う義務はない旨の内容証明郵便を発していることを認めることができ、かつ、新規約で新たに規定された前記事項はその性質上原告らの本件専有部分の区分所有者としての利害に大きな影響を及ぼすものと認められることからすれば、前記訴訟の係属から直ちに、原告らがこれに対抗することのみを目的として本件訴訟を提起したものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

以上の外原告らの新規約の無効確認請求が権利濫用にあたるものと認めるべき証拠はないから、被告の権利濫用の抗弁は失当である。

4  以上によれば、本件臨時総会の召集手続には本件決議に関する限り瑕疵があるから、これに基づいてなされた本件決議は無効というべきであり、したがつてまた、本件決議によつて設定された新規約は集会の決議によつて設定されたものということはできないから無効といわざるをえない。

四以上の次第であるから、原告らの請求はいずれも理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条の規定を適用し、仮執行の宣言を付することは相当でないからその申立を却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官信濃孝一)

別紙目録 一

一棟の建物の表示

所在 渋谷区恵比寿四丁目五〇番地壱四

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根八階建

床面積壱階 232.56平方メートル

弐階 229.32平方メートル

参階 226.08平方メートル

四階 226.08平方メートル

五階 226.08平方メートル

六階 226.08平方メートル

七階 226.08平方メートル

八階 226.08平方メートル

専有部分の建物の表示

家屋番号

恵比寿四丁目五〇番壱四の壱七建物の番号 六〇弐号

種類 居宅

構造 鉄筋コンクリート造一階建

床面積

六階部分 47.94平方メートル

目録 二

次の文面の白色プラスチック製掲示板

「当第2エビスハイツは、管理組合規約により、一〇一号、二〇一号は事務所として使用を認めており、その他は全て居住専用です。

第2エビスハイツ管理組合」

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